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巨匠ルキノ・ヴィスコンティが捉えるアラン・ドロンの「面」について

■イケメン俳優の存在

先日、私は蜷川幸雄演出の舞台『ヴェローナの二紳士』を観る機会を得た。そこには紛 れも無い「古典」があった。ではそのシェークスピアの古典劇を観劇しにやって来た観客 層の年齢が高いかと言うとそうではない。会場のほとんどを占めていたのは、二〇〇六年 に「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリに輝き、華々しいデヴューを 果たした溝端淳平を目当てにする若い世代の人たちである。「ジュノン・ボーイ」に疑念 を抱く人もいるかもしれないが、溝端はシェークスピアの伝統的オール・メールに相応し く女性役を見事に演じ切っていた。そこでの彼の一挙手一投足その全てが美しく、その構 えの優雅さは女形さながらであった。上演後のカーテン・コールでは、観客たちが波打つ ように次から次へと立ち上がり、役者陣もそれに応え何度も舞台上に登場し、会場からは 長らく拍手が絶えなかった。この感動は、結果的には舞台上での溝端の演技によるもので はあるが、それはやはり「かっこいい若者たちの、いわゆるイケメン俳優たちの演劇が、 女の子たちに評判がよくて、大勢の若い観客を集めているというので、ぼくもちょっと演
出してみようと思って」と語る蜷川の「チェーホフだって、シェークスピアだって、三島 由紀夫だって読んだこと」のない「サボーグのような、マネキンのような若者」に古典的 風格を与えた、その「演出力」によるものではないだろうか。私としてはどうもこの辺り にヴィスコンティとの類似性・親近性を感じるのである。

ヴィスコンティの映画にはとにかく容姿の整った美しい男たちが登場する。『郵便配達 は二度ベルを鳴らす』(一九四二)のマッシモ・ジロッティ、『夏の嵐』(一九五四)のフ ァーリー・グレンジャー、『白夜』(一九五七)『異邦人』(一九六七)のマルチェロ・マス トロヤンニ、『熊座の淡き星影』(一九六五)のジャン・ソレル、『地獄に堕ちた勇者ども』 (一九六九)『ルートヴィヒ』(一九六九)『家族の肖像』のヘルムート・バーガー、『ベニ スに死す』のビョルン・アンドレセン、『イノセント』のジャンカルロ・ジャンニーニ等々、 その悉くが当代きっての美男俳優ばかりである。けれども、その中でもひと際精彩を放ち、 人々の印象に残らざるを得ない「超越的存在」は、やはりアラン・ドロンだろう。

蜷川の言う「サイボーグのような、マネキンのような若者」は、一般的に「イケメン」 と呼ばれる。それは、視覚的な文字記号としても、その響きの妙な心地よさによる同語反 復を促す聴覚的な音声記号としても、さらには実体としての表層を見る限りにおいても、 「イマドキ風」の軽薄さを全面に出した一語である。この言葉が使われるようになった九 十年代後半以前、人々は「容姿の優れた男性」に対してどのような語彙を宛てがっていた か。「男前」、「二枚目」、「美男子」、「ハンサム」といったやや重厚さを伴うものばかりだ が、現代の「イマドキ風」の感覚からすると、先に列挙したヴィスコンティ的俳優たちに は「イケメン」という通俗的な語はそぐわず、かわりに彼らには「銀幕」という語が宛て がわれ、その存在は一種の「神格性」を帯びる。それは勿論、アラン・ドロンも例外では なく、彼もやはり「銀幕」に括られることになる。だが、ぱっちりと開かれた美しい瞳、 ほどよく弓の引かれた眉、中央でひと際整いを見せる鼻、そして薄紅色がかった唇、その 顔の表層の総体を見る限り、「イケメン」の「面」を形づくる構成要素とさほど違いはな いようにも思える。ドロンの顔は、「イマドキ風」に言えば、「甘いマスクの男子」つまり 「甘メン」といったところだろうか。けれども、ドロンとそこらのイケメンとではまず知 名度からしてかなりの隔たりがある。なぜアラン・ドロンは世界映画史上最大にして最後 の「美男子スター」と成り得て、そこらのイケメンはそこらのイケメンでしかないのか。 月並みな回答にはなってしまうが、とりあえずの答えを出すならば、それは間違いなくル キノ・ヴィスコンティという偉大なる演出家の卓越した、その「演出力」によるものでる。 ここでは、アラン・ドロンが出演した二作、『若者のすべて』(一九六〇)と『山猫』(一 九六三)を取り上げ、ヴィスコンティの「演出力」の根底にある「大時代性」と「美しき 男(アラン・ドロン)」という二つの重要な主題を再考し、「過去の巨匠」であるはずのヴ ィスコンティに「現代性」を見つけてみたいと思う。

《カートゥーンネットワーク》の面白作品4選
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バンビーノ

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