映画board

Birthday!

草彅剛

人気

【劇薬映画レビュー】『アングスト/不安』この映画で貴方はバースト・ショック《異常》を知る。

32年前、《異常》な映画はヒッソリとリリースされた

 今から32年前、レンタルビデオ店の棚の新作ホラー棚に奇妙なタイトルの作品がポツリと置かれていた。

 『鮮血と絶叫のメロディ/引き裂かれた夜』

 「全然、惹かれないタイトルだなぁ」と思いつつ、手に取る。ジャケ裏には、全然知らない監督、役者。唯一ピンと来たのは”音楽:クラウス・シュルツ”の文字だった。当時クラウトロックに傾倒していた私は、作品の内容に期待もせずクラウス・シュルツの音楽を聴くためだけに、『鮮血と絶叫のメロディ/引き裂かれた夜』をレンタルした。それが運の尽きだった。私は中学生の身で、本物の《異常》に触れてしまったのだ。

当時のチラシ。「バースト・ショッカー登場!!<理性崩壊映像>」の文字が眩しい。申し訳程度に記された原題は『Angst』ではなく、当時の公式英題『FEAR』となっている。諸事情により所有者は殆どいない激レアチラシだ。今回、特別に画像使用許可を頂いた。実は私が手にしたビデオも相当レアで、実売300本にも満たなかったそうだ。

 冒頭から異様な違和感があった。タイトルもクレジットも無いまま映画は始まる。イカれた表情の男の周りをグルグルとカメラが回る。不思議なことに”高さ”が変わらない。長回しが続き、まるで男と一体化したような気分だ。どうやって撮っているんだ?と不思議に思っていると、男は、とある家を訪ね、老婆を撃ち殺す。

「理由など、どうでもよかった。ただ”やらねば”と思った。」

 男の独白と思われるナレーション。そして、ようやくタイトル。実際に起きた事件を基にしたというのは、ビデオジャケット裏面の解説を読んで知っていた。だが、ここまで生々しい映画だとは思わなかった。唐突なオープニングの後に語られるのは、男の異常な生い立ち。14歳でサディズムに目覚め、動物を虐待し、母親をメッタ刺しにし、暴力を振るっては入出獄を繰り返す、私生児の半生。(※1)恐ろしくて、悲しくて、吐き気がした。そこからのストーリーは単純だった。先の老婆殺害の罪で収監されていた男が出所し、その足で民家に押し入り次々と人を殺していく。それだけだ。ただ、とにかく異常に感じたのは、男の言動が全く理解できない事だ。誤解を恐れずに言うと、映画に登場する殺人鬼は

 「それなりの理由で、あるいはまったく理由もなく、人をぶっ殺す。映画的に格好良く。」

 という存在だ。しかし、この映画の殺人鬼……役名は「K:異常者」だが……の行動には、理由があって、かつ理由がないのである。え?何言ってるのか解らない?うん。私にも解らない。Kは「俺には計画がある、完璧なまでの」と繰り返し述べるのだが、その行動は完全に行き当たりばったりだ。なんとなく立ち寄ったダイナーで見かけた女性に欲情し、ムラムラしたまま、何となく乗ったタクシーの女性ドライバーを靴ひもで絞め殺そうとしたり、なんとなく窓ガラスをたたき割って忍び込んだ民家で一休みしようとしたり……全て勢い任せの行動。冒頭の殺人同様、彼は”やらねば”という衝動に突き動かされているだけなのだが、彼にとっては、その衝動こそが、確固たる”計画”と”理由”なのだ。映画は徹頭徹尾、理由があって理由がない、Kの凶行を描いていく 。

©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

豚の血を使った、生々しい殺人場面。スラッシャー映画に見られるようなスピーディーでスタイリッシュな殺人場面ではない。じわじわと、だらだらと殺す。

 肝心の殺人シーンも気まぐれだ。なんとなく拷問して、殺しているだけだ。監督のジェラルド・カーグルは本作の暴力描写について「映画的に美しく描く事はせず、生々しさを優先した。」と言っているが、まさにその通り。異常なまでの生々しさだ。若い女性は縛り上げられ、老婆は首を絞められ入れ歯が飛び出し、車いすの障害者は為す術もなく涎を垂らし続ける。血糊も豚の血を使う徹底ぶり。Kが叩き割るガラスも一部、本物のガラスが使われており、K役のアーウィン・レダーが本気でガラス片から身を守ろうとする場面もある。

※1
Kの生い立ちの場面は、国内ビデオ版には無かった(はず)。 その後、本作に魅せられた筆者がドイツ版か本国版の輸入VHSで補完したため、記憶があいまいである。

ジブリ好き必見!《宮崎駿》関連作品 おすすめ5選
次のページ : 死体と一緒にいられるなんて、最高じゃないか

Commentコメント

コメントしてポイントGET!

杉山すぴ豊

2020/05/30 14:02

すぴ豊です。
ひゃああ!このレビューを読むだけでも、相当、怖いですね。
オーストリア映画っていうのも珍しい。
特に70年代 80年代の映画って映像が妙に”生っぽい”から余計に
ささりますよね。

2いいね

違反申告

氏家 譲寿(ナマニク)

2020/05/30 20:34

こう言ってしまうと、老害感溢れちゃうんですけど、やっぱりプラクティカルなのが良いんだと思うんですよね。

2いいね

違反申告


まっどまっくすこーじ

2020/05/30 00:23

ナマニクさんの人生を変えた逸品ですと?😲
そりゃヤバすぎます!!😅
観ます🎵

1いいね

違反申告

氏家 譲寿(ナマニク)

2020/05/30 10:43

若い子が見たら相当ショックを受けると思いますよ。今観ても「うわぁ……」てなります。

0いいね

違反申告


コメントの続きを表示  4件

この記事の画像  6枚

Writer info

氏家 譲寿(ナマニク)

ホラーブログ「ナマニクさんの暇潰し」管理人、ZINE「Filthy」発行人、ライター。映画...

more

Recommend関連記事

この記事について報告する

ますかた一真の映画 星占い - 今週の運勢

Review最新のレビュー

Comment記事へのコメント

Ranking動員数ランキング

2020/7/6 更新

映画動員数ランキングへ

Popular人気記事&コンテンツ

Weekly Vote今週の対決

投票する

Pollアンケート

あなたの好きな映画の見かたは?

あなたの好きな映画の見かたは?
絶対、字幕版
どちらかというと字幕版
どちらも観る
どちらかというと吹替版
絶対、吹替版
アンケートに答える

Official SNS公式SNS

PR Storyいま読みたい記事

Presentプレゼント

ご応募はこちら

Popular Tags人気のタグ

おすすめ映画まとめ 洋画 ランキング セクシー ホラー アメコミ アニメ アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー マーベル かわいい

Pick Upピックアップ