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Birthday!

秋吉久美子

【ピース又吉原作】夢と現実の狭間で揺れ動く男女の不器用で儚い純愛『劇場』

後悔と共に生きていく

逃げる口実がある内は、人はどこまでもしがみ付く。言い訳を繰り返す。変わりたいと願いながらも、変わるキッカケを掴めず、具体的に掴むための行動も起こさず、結局有耶無耶にしてしまう。退路を絶たれない限り、人は動き出すことなどできやしない。いざその時が訪れれば、痛みや後悔も付き纏うだろうが、否が応でも動かざるを得なくなる。そして、「いつまでもつだろうか」を発端とする「もつ」「もたない」の領域に心が囚われてしまっている内は、きっとどこへも行けやしない。自らの足で立ち、誰の助けも得られずとも己の意志だけでやっていく覚悟をしなければ、本当の意味で夢と向き合うことなどできやしない。永田が抱える問題が、沙希と過ごす時間が、改めてそれらの事実に気が付かせてくれる。

©2020「劇場」製作委員会

白状するが、現在33歳のぼくは、少し前まで親の援助を得て生活を送っていた。俳優を目指して上京するも上手くいかず、嫌なことからは逃げてばかりで、多くを誤魔化しながら生きていた20代。ぼくにとっての沙希は両親であった。親の年齢が60を過ぎたあたりから、いつかはこの日々にも終わりが訪れることを悟り、「いつまでもつだろうか」という言葉をリアルに胸に宿していた。その言葉に締め付けられる度に「変わらなければ」と決心するも、数日も経てば元通りの堕落しきった日々を過ごすだけ。そうこうしている内に時は流れ、恐れていた話題を母親から突き付けられた時には、怖くて情けなくて恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになった。そんな時間を経て、どうにかこうにか自立できた今、胸を蝕んでいた負い目や後ろめたさは消え去り、気付けば「いつまでもつだろうか」という言葉が頭をよぎることもなくなり、純粋に目の前にある夢や目標に向き合うことができている。今となっては、どうしてもっと早く動き出せなかったのだろうと後悔もするが、あの頃の自分ではどう足掻いても動き出せなかった。あの日々を肯定したいわけでもないが、逃げて、逃げて、逃げ続けてきたからこその今がある。同時に、失ったものも、傷付けた人も、許されないこともたくさんある。それら全てのことを抱えながら生きていくしかない。

©2020「劇場」製作委員会

「一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう」。
予告やチラシにおいても記されている永田の言葉が、この作品の全てを物語っているようにも思う。とてつもない後悔を抱えながらも、今を、前を、未来を見据えてぼく達は生きていくしかない。人と人との関係性は木々のように枝分かれしていくものだけど、枝分かれした先であろうとも同じ花は必ず咲く。「枝」として捉えれば道は違えてしまっているのかもしれないが、「1本の木」として捉えれば道が違えたとは言い切れない。つまりは、痛みや悲しみが伴う出来事が起きようと、いつの日か温もりや喜びが伴う思い出に変えられる。時間はかかるかもしれないが、満開の花が咲き開く日がやってくる。二人が辿る結末が、過ぎ去りし日々を、今ある現実を、自らの心を見つめ直す時間を与えてくれた。

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高桑 ムツ子

2020/04/06 11:36

又吉さんの処女作は余り好みでなかったが、本は読んでいませんが映画に興味があります

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ミヤザキタケル

1986年、長野県生まれ。 2015年より「映画アドバイザー」として活動を始める。 WOWOW...

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