映画board

【怪談映画の代表格】巨匠、鬼才、大スター…。日本映画史に残る『四谷怪談』もの おすすめ7選

『四谷怪談』について

もともとこの物語は、元禄年間に江戸の雑司ヶ谷四谷町(現在の豊島区雑司が谷)で起こった事件についての伝承と言われている。これがさまざまなバリエーションを生み、さらには落語や鶴屋南北の歌舞伎狂言『東海道四谷怪談』となって、全国的に知られるようになった。それらの多くが、「夫の伊右衛門によって惨殺された妻のお岩が、幽霊となって夫に復讐する」という物語の大枠は同じだが、展開や登場人物の設定などに微妙な違いがある。
映画としての「四谷怪談」に最も強い影響を与えているのは、やはり『東海道四谷怪談』だろう。ここで描かれた、毒薬でお岩の顔が醜く腫れあがるところや、不義密通を犯した男女を戸板の裏表に釘で打ち付けて流す、などの描写はこの歌舞伎で描かれたものだが、後の映画の大半でこれらの要素を(程度の差はあるが)取り入れている。なお当時は、伊右衛門が赤穂浪士の一人という設定であることから、『仮名手本忠臣蔵』と一部分ずつ交互に上演されたという(このことをヒントに製作された作品についても後述する)。
映画でもテレビでも何度となく取り上げられた『四谷怪談』。戦後だけでも、『二十四の瞳』の木下惠介監督、上原謙と田中絹代の主演という文芸作品並みの顔ぶれによる『新釈四谷怪談(前・後篇)』(1949)、鬼才・蜷川幸雄がまったく違う切り口で二度にわたって映画化した『魔性の夏 四谷怪談より』(1981)と『嗤う伊右衛門』(2004)など、仕上がり方はバラエティに富んでいる。これは逆に言えば、『四谷怪談』がさまざまな要素を含んだ物語であることの表れだろう。
そのことを象徴するような7本の映画をご紹介していこう。

四谷怪談映画 おすすめ7選(1)

『四谷怪談』(1959年 大映)

『四谷怪談』DVD(販売元‏:KADOKAWA / 角川書店)

https://m.media-amazon.com/images/I/81JEnqSeMNL._AC_SY550_.jpg

『座頭市』シリーズなど数々の名作時代劇を生み出した大映京都撮影所。独特の映像美に満ちた作品の数々で同所を代表する名監督だった三隈研次による『四谷怪談』。
本作の最大の特徴は、伊右衛門役に戦前から二枚目として活躍していた大スターで当時は大映の重鎮的存在だった長谷川一夫を据えたことで、他の『四谷怪談』には見られない大胆なアレンジが行なわれていることだろう。他の多くの作品に比べると「悪人度」がほとんどゼロの伊右衛門になっているのだ。周囲の悪だくみに巻き込まれるが最後までお岩を愛し続けるというキャラ設定はかなり珍しい。同じく二枚目スターの上原が演じた『新釈四谷怪談』の伊右衛門を連想させる。
お岩役の中田康子は宝塚歌劇団出身で、日劇ダンシングチームを経て東宝、そして大映へと移籍してさまざまな映画に出演。本作の後も『怪談累が淵』(1960)に『怪談蚊喰鳥』(1961)と足かけ3年にわたって怪談映画のヒロイン(?)役を務めたことから、大映は彼女を「会談女優」として売っていこうと考えていたのかも知れない。その一方で、宝塚出身で歌や踊りができることから、大映が製作したミュージカル『アスファルト・ガール』(1964)の主演を務めたが、その直後に女優を引退した。

『東海道四谷怪談』(1959年 新東宝)

『東海道四谷怪談』BD(販売元‏:Happinet)

https://m.media-amazon.com/images/I/71NLZhVhPIL._AC_SX466_.jpg

『四谷怪談』の映画化作品の中でも“最恐”と言われている作品。黄金期の日本映画界で最も怪談映画を得意としていた新東宝で、怪談映画で自身の個性を最も発揮していた中川信夫が監督した、『四谷怪談』だけでなく怪談映画の中でも5本の指に入る名作だ。
大手の中でも財政的に最も苦しかった新東宝の作品ゆえに、製作費も決して十分ではなかった。そんな悪条件の中で中川の芸術的センスと職人技が最大限に発揮された、まさに奇跡の傑作。当時はカラーがまだ技術的に発展途上だったが、その不安定さが逆におどろおどろしい雰囲気を盛り上げている。視覚的な恐怖よりも、ジワジワと効いてくる心理的な恐怖の印象が強い、日本の怪談映画のまさに典型例。
伊右衛門には、ニヒルな二枚目から冷酷な悪役まで幅広く演じていた天知茂。心の弱さのためについ悪事に手を染め、その積み重ねで極悪人になってしまう、というリアルなキャラクター設定を見事に表現している。お岩役の若杉嘉津子は時代劇を中心に活躍していたが、本作ではハードな撮影にも弱音一つ吐かずに挑戦して中川を感心させたという。
ちなみに本作は、前項の大映版の約2週間後に公開された。大手の映画会社間で『四谷怪談』の競作が行なわれていたわけだ。日本映画がまだまだ元気だった時代らしい話である。

【ページをめくる手が止まらない】おすすめ小説33選(2021年版)
次のページ : 四谷怪談映画 おすすめ7選(2)

Commentコメント

コメントしてポイントGET!

投稿がありません。

この記事の画像  8枚

Writer info

上妻 祥浩

熊本県出身・在住。地元の新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で新作映画の解説の仕事を行な...

more

Recommend関連記事

この記事について報告する

Review最新のレビュー

甲斐琴乃

2021/12/05 06:39

懐かしい

3

「超少女REIKO」

Comment記事へのコメント

Ranking動員数ランキング

2022/1/24 更新

映画動員数ランキングへ

Popular人気記事&コンテンツ

Weekly Vote今週の対決

投票する

Pollアンケート

好きな映画のジャンルは?

好きな映画のジャンルは?
SF
アクション
クライムサスペンス
コメディ
青春
ドキュメンタリー
ヒューマンドラマ
ファンタジー
ホラー
ミステリー
ミュージカル
ラブロマンス
戦争
歴史
アンケートに答える

Official SNS公式SNS

PR Storyいま読みたい記事

Popular Tags人気のタグ

洋画 邦画 ドラマ おすすめ映画まとめ アクション ミステリー・サスペンス イラスト ホラー かわいい ラブロマンス

Pick Upピックアップ