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木村佳乃

借り物の権力で暴走していく男の奇妙で恐ろしい実話『ちいさな独裁者』

ちいさな独裁者

ちいさな独裁者

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63%

原題:DER HAUPTMANN
2019年2月8日より全国にて公開
2017年/ドイツ=フランス=ポーランド/119分

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あらすじ

第二次世界大戦末期の1945年4月、敗色濃厚なドイツでは軍規違反を犯す兵士が増えていた。命からがら部隊を脱走したヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は、道端に打ち捨てられた車両のなかで大尉の軍服を発見する。それを着てナチス将校に成りすますと、ヒトラー総統からの命令と称する架空の任務をでっちあげるなど言葉巧みに、道中で出会った兵士たちを次々と服従させていく。“ヘロルド親衛隊”のリーダーとなり強大な権力に酔いしれる彼は、傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついには大量殺戮へと暴走を始めるが……。

出典元:https://eiga-board.com/movies/91218

ハリウッドで『RED/レッド』や『ダイバージェント』シリーズなどのアクション大作を撮っていたロベルト・シュヴェンケが15年ぶりに祖国ドイツに帰って撮った作品は、嘘のような恐ろしい実話の映画だった。

シュヴェンケは静謐な演出やモノトーンの冷たい画面設計などハリウッド時代とは打って変わった作風を見せる。

直接的な残酷描写は控えめだが、既に死ぬことが確定した人間が実際に殺されるまでの嫌な間や、一発で死にきれなかった人間にとどめを刺しに行くシーンなども省略せずにきっちりと見せ切るので非常に嫌な気分にさせられる。

ただ本作の一番の魅力はこの信じがたい実話そのものにあるだろう。

「ただの偶然で将校の軍服を手に入れた脱走兵が、手にした権力を暴走させ虐殺を引き起こす」

この一文だけで衝撃的で恐ろしいが、本作は丁寧に「何故そんな事態に至ってしまったのか」という部分を描いており、「自分が当人やその周りの人間でも同じことになるかも」と思わされてしまうところが本当に怖い。


冒頭、本作の主人公ヘロルトが情けない脱走兵として必死の形相で逃げる姿が映される。どうみても小物ですぐに殺されてしまいそうな男だが、逃げ切った後にたまたま見つけた乗り捨てられた将校の車に積んであった軍服一式を着ると彼は豹変する。

主演のマックス・フーバッヒャーの見事な演じ分けもあって、先ほどまで泥だらけになって逃げていた男とは思えない冷静沈着で残忍なナチス将校の姿が現れる。ヘロルドが当時まだ19歳の若年兵だったという事実にも驚かされる。

その後もヘロルトは胆力と知恵でナチス将校になり切り続けるが、実話という事もあって、なぜ彼にそんな能力があるのかという点は掘り下げられない。

代わりにこの映画は「なぜそんな若造の脱走兵にみんなが騙され、凶行に及んだのか」という点を丁寧に描いている。

すっかりヘロルトのことを信じてしまう者、疑うも決定打がなく信じざるを得ない者、見抜いていても状況に流されてしまう者。

終戦間近の混乱期、おそらくみんながもう祖国が負けることを感じ取っていて自暴自棄になっていた時代の空気もあったのかもしれない。

ヒトラーからの直接命令で前線の取り締まりに来たというヘロルトの雑なウソも偶然が重なり信じられてしまう。

いろんな要素が重なり手にした権力にヘロルトは酔いしれ、取り巻きたちも権力の蜜を吸い、彼らはどんどん暴走して最悪の虐殺へと事態は雪崩れ込んでいく。

恐ろしいのはヘロルトが虐殺したのは自分と同じ脱走や略奪を働いた兵たちということだ。


自分がかつてそうだった存在を殺すことで疑いをなくしナチス将校になり切ろうとしたのか、同族嫌悪か、分からないがとにかく彼は一切の慈悲もなく脱走兵たちを殺していく。

自分が権力を振るう側になった瞬間、人間はこんなにも残酷になれるのかとうすら寒くなってくる。

しかも敵兵を殺すという事ですらなく、規範から外れた味方を殺していくという生産性のない行為の方に注力してしまう。

しかしそれはあくまで正当性のない偽物の権力。

「丈の長い軍服 借り物の権力」というキャッチコピーの通り、ヘロルトの身の丈には有り余るものだった。それの象徴のように、軍服を彼の体の寸法に作り直した途端に彼の手に入れた権力はどんどん崩壊に向かっていく。

しかし身に余った権力を欲し、手に入れたのはヘロルトだけではない。

そもそもヒトラーも民主主義の選挙で選ばれた一時的に権力を持たせるだけの首相のはずだった。

しかし彼は国家緊急権を利用し独裁者になり、強い力を誇示するナチスを民衆も支持していった。

必要以上の権力を手にし自滅していったのはヒトラーでありナチスでありドイツ国民であり、ヘロルトの起こした事件はそれが個人に集約された象徴的な事件だったのだ。

そしてシュヴェンケは「このような事件は今の時代でも起こりえる」とこの実話を映画化した。

確かに現代日本でも起きている役職者によるパワハラ事件などにも通じる部分がある。

そんな監督のメッセージが最も強烈に伝わってくるのはエンドロール。リアルや時代を超越した恐ろしい光景を見せつけられるが、それがどんな場面かは劇場で確認していただきたい。

この映画を見て「人間はこんなひどいことはしない」と逃げることはできない。

「自分がこの場にいてもこんなことはしない」と思い込むこともできない。

容赦のない映画だが必見の一作だ。


『ちいさな独裁者』は新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国11館で上映中。

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whitestonetaichi

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