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天保水滸伝 大原幽学

あらすじ

冷害が打ち続き、食べるものがなく、人が人を殺して食うような大飢饉が日本全土を襲った天保の頃。農村では、厳しい年貢のため土地を失ない放り出される農民が増えて、一揆が相ついで起っていた。そんな中で房総利根川周辺一帯は、産業資本をバックに十手を預かって権力を振り回す飯岡の助五郎と新興やくざの笹川の繁蔵の二大勢力が対立し、博徒の巣窟と化していた。そして利根川周辺の農...

冷害が打ち続き、食べるものがなく、人が人を殺して食うような大飢饉が日本全土を襲った天保の頃。農村では、厳しい年貢のため土地を失ない放り出される農民が増えて、一揆が相ついで起っていた。そんな中で房総利根川周辺一帯は、産業資本をバックに十手を預かって権力を振り回す飯岡の助五郎と新興やくざの笹川の繁蔵の二大勢力が対立し、博徒の巣窟と化していた。そして利根川周辺の農民たちは、全国的な飢饉と利根川の相つぐ洪水で貧困と絶望に打ちひしがれていた。ここ長部村でも、農民たちの無気力な生活が続いていたが、この村には少しずつ変革が起っていた。この地に往みついた狼人、大原幽学の手によって、農業改革が始まっていたのである。しかし、農民たちが幽学の教えに従って村造りに励む一方では、助五郎、繁蔵による農民相手の博奕は止まず、足が抜け出せない農民たちはテラ銭を執拗に巻き上げられていった。ある日、借金のために娼婦に身を堕しながらも亡夫を慕い、農民の生活に執着する女、たかがこの村に帰って来た。馴じみ客の一人、平手造酒の強引なひき止めにもかかわらず、たかの決意は堅かった。「雨の降る日も蓑笠つけて、夫婦で野良へ出る味は、知らねえもんには判らねえべが……」あらゆる逆境の中で生き抜いて来たたかの心は、幽学の教えにも固く閉されていた。「下手にかばい合えば人は腐る。バカや腑抜けは泣けばいい」たかの辛い体験から生まれた言葉は、幽学の胸を突き刺した。幽学たちの懸命な説得にも応じないばかりか、村の農民を手玉に取って春耕作を始めた。村人たちの反感は広がり、「村中の助平男をおそそ払いでこき使っている」と噂が立って、嫌われ者になっていた。取り入れに忙しいある日、村に事件が起った。助五郎の子分にだまされて、博奕の借金返済に追いつめられた農民たちが、村請けの米を盗んだのだ。「組むも助け合うもねえわ。屑だで」たかは吐きすてた。泥棒の一人はたかの父、長兵衛だった。その農民たちは、寄合で村八分と決った。幽学にとっても衝撃は大きかった。だが、一度は心が揺れたものの、「人を捨てては身が立たぬ」という自分の教えの言葉に我に返った。祭りの日、太刀を持った幽学は、助五郎と繁蔵の開帳する賭場へ単身、なぐり込んだ。農民たちを引きずりだした幽学は、「真人間になれ、真人間になれ!」と涙を流しながら叫んだ。かねてから幽学の言動に目を光らせていた関八州の役人は、この騒動をたてに容赦ない取り締まりに出てきた。田畑、家財を売り払い、借金で首がまわらなくなってまで、幽学と労苦を共にして来た名主の良左衛門は幽学に、「人には本当に屑はないのでしょうか」と問うた。幽学は詰った。が、「人には屑はない。隣りを捨てて人は立たぬ。人にゆきわたってこそ真は生きる。俺はこの三つから終生離れることは出来ぬ」といいきかせた。しかし、彼は心の中では、この長部村から離れる時が来たと感じていた。翌朝、貧しい旅装束の幽学は、名主の家を出た。だが、その幽学の行く路を壁のように農民たちが立塞いでいた。その農民の人波の中には、屑百姓やたかの顔もあった。

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